愛知県サロン業を応援する地域密着型サービス

美容室オーナーの老後設計|ハサミを置いた後の収入をどう作るか

美容師に定年はありません。けれど、立ち仕事と細かい手作業を何歳まで続けられるかは、誰にも分かりません。個人経営のオーナーの多くは、売上が自分の手に結びついたまま50代、60代を迎えます。この記事では、ハサミを置いた後の収入をどう作るかを、制度と店の両面から整理します。

  • 美容室オーナーの老後が不安定になりやすい、構造上の理由
  • 収入を「年金の上乗せ」「店を人に任せる」「指名に頼らない業態」の3層で備える考え方
  • 40代・50代・60代それぞれで先にやること

美容室オーナーの老後の備えは「年金の上乗せ」と「自分が立たなくても回る店」の二本立て

結論から書きます。個人経営の美容室オーナーが老後に向けて備えるべきことは、次の2つです。

  1. 公的年金の上乗せを、早い時期から積む。個人事業主は原則として国民年金のみで、受け取れる額は会社員より小さくなります
  2. 自分が施術しなくても売上が立つ形を、体が動くうちに作る。売上がオーナー個人の指名に結びついている限り、ハサミを置いた日に収入も止まります

不安定になりやすい理由を、数字で確かめます。

理由 根拠
年金が国民年金中心になる 美容業の事業所のうち法人は19.8%。個人事業主が大半(総務省「令和3年経済センサス-活動調査」)。個人事業主は厚生年金の対象になりません
国民年金だけでは生活費に届きにくい 老齢基礎年金の満額は月額70,608円(令和8年度・昭和31年4月2日以後生まれの場合。日本年金機構)。40年間すべて納めた場合の額です
退職金がない 個人事業主には、勤め先から出る退職金がありません。自分で積み立てない限りゼロです
売上が本人の手に結びついている 1美容所あたりの従業美容師は2.12人(厚生労働省「令和6年度衛生行政報告例」)。オーナー自身が主な稼ぎ手という店が多数です
後を継ぐ人がいない 厚生労働省「美容業の振興指針」は、美容所の多くが個人・家族経営で、営業者の高齢化と後継者問題を抱えていると指摘しています

参考までに、同じ日本年金機構の資料では、平均的な収入で40年間会社に勤めた場合の夫婦2人分の年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金)は月額237,279円とされています。夫婦とも国民年金のみの場合は満額でも月額約14万円で、差は月9万円以上になります。

1層目:年金の上乗せ。個人事業主が使える4つの制度

個人事業主が自分で上乗せできる公的な制度は、主に4つあります。ここでは概要だけを示します。

制度 概要 窓口
付加年金 国民年金保険料に月額400円を上乗せして納めると、「200円×納付月数」が年金の年額に加算される 市区町村・年金事務所
国民年金基金 国民年金の第1号被保険者が加入できる上乗せの年金。付加年金との併用は不可 国民年金基金
iDeCo(個人型確定拠出年金) 自分で掛金を出し、自分で運用する年金。運用の結果によって受取額が変わる 金融機関
小規模企業共済 個人事業主や小規模企業の役員のための、積み立てによる退職金制度。掛金は月額1,000円〜70,000円の範囲で設定でき、廃業・退職時に受け取る 中小機構・商工会議所・金融機関など

掛金の上限、税の扱い、受け取り方は制度ごとに異なり、改正もあります。どれをいくら使うかは、所得や家族構成、年齢によって変わります。個別の判断は、年金事務所や税理士などの専門家に相談してください。

押さえておきたいのは、どの制度も「長く積むほど効く」という点です。60歳が近づいてから始めても、積める期間が残っていません。

2層目:店を人に任せる。オーナーの仕事を「施術」から「運営」へ移す

年金の上乗せだけでは、現役時代の収入との差は埋まりません。もう一つの柱が、自分が施術に入らなくても店が回る形です。

ハサミを置く日は、ある日突然ではなく、段階を踏んで迎えるほうが安全です。

段階 オーナーの状態 やること
1 週5〜6日、フルで施術 自分の指名客の割合を数える。売上の何割が自分か
2 施術日を週3〜4日に減らす 指名客をスタッフに少しずつ引き継ぐ。新規客は自分が担当しない
3 施術は一部の顧客のみ 予約・会計・発注・求人など運営の仕事を書き出し、手順にする
4 施術に入らない 客数・再来・次回予約などの数字を見て判断する役割に専念する

難しいのは段階2です。指名客はオーナー個人についているため、引き継ぎの途中で離れる方が一定数出ます。一時的に売上が下がることを見込んで、資金と時間に余裕のある時期に始める必要があります。

3層目:指名に頼らない業態を持つ

既存の店で指名客を引き継ぐのが難しい場合、最初から指名に頼らない店を別に持つ、という方法があります。

方法 向いているケース 難しいところ
既存店をスタッフに任せる 信頼できる店長候補がいる 指名客の引き継ぎで客離れが起きる。店長の独立リスク
店を譲る(親族・スタッフ・外部の引き受け手) 継ぐ意思のある人がいる 譲渡後の収入は一時金か分割が中心で、継続収入になりにくい
メニューを絞った2業態目を持つ 既存店の経験と地域の土地勘がある 出店の資金が要る。美容師の確保と、数字を見る運営力が必要
面貸し・シェアサロンにする 立地がよく、設備が整っている 借り手の入れ替わりで収入が安定しにくい

愛知の事例:白髪染めに絞った専門店

当法人が活動の一つとして普及を支えている白髪染め専門店「カラーのちから」は、愛知県を中心に、出店決定を含め31店舗(2026年9月時点)まで広がっています。メニューを白髪染めに絞り、お客様が特定の美容師を指名して通う店ではないため、オーナー自身が施術に入らない運営が成り立ちやすい業態です。

既存15店の平均では、1店舗あたり月間の客数は約270人、うち新規は約22人、次回予約率は約52%です(2026年夏時点・各店の売上日報の集計)。

ただし、これは収入を約束する仕組みではありません。次の点は事前に知っておく必要があります。

  • 店によって新規客の集まり方に大きな差があります。立地、看板の見え方、店名で結果が変わりました
  • 施術に入らない代わりに、採用、シフト、数字の確認というオーナーの仕事は残ります。「何もしなくてよい店」ではありません
  • 出店には資金が必要で、借入をする場合は返済の計画が先に立ちます。60代後半からの新規出店は、回収までの年数を慎重に見る必要があります
  • 技術で高い単価をいただく店とは考え方が逆です。客数と再来で成り立つ店であり、向き不向きがあります

年代別:先にやること

年代 先にやること
40代 ねんきん定期便で将来の受取見込額を確認する/上乗せの制度を一つ始める/売上に占める自分の指名の割合を数える
50代 施術日を減らす計画を立て、指名客の引き継ぎを始める/運営の仕事を手順にする/2業態目や承継を検討するなら、資金に余裕のあるこの時期に
60代 店を続ける・任せる・譲る・閉じるの4つから方針を決める/譲る場合は相手と時期を具体にする/閉じる場合は原状回復の費用や借入の残りを確認する

事業の引き継ぎについては、各都道府県に設置されている公的な相談窓口「事業承継・引継ぎ支援センター」でも相談できます。

まとめ

個人経営の美容室オーナーは、年金が国民年金中心で退職金もなく、売上が自分の手に結びついています。
備えは、年金の上乗せを早く始めることと、自分が立たなくても回る店を体が動くうちに作ることの二本立てです。
指名に頼らない業態を持つ方法もありますが、収入を約束するものではなく、資金・人・運営力の見通しを立てたうえで判断してください。

この記事は一般社団法人サロンシードが発行しています。当法人は、愛知県を中心に美容室の経営・雇用・集客を支える活動をしています。

本記事で紹介している「カラーのちから」は、株式会社graciautoが本部運営に関わる白髪染め専門店です。同社の代表は当法人の理事を務めており、当法人の関連企業にあたります。当法人は、愛知県で広がったこの取り組みを、美容室の新しい業態・雇用・美容師の復職の事例として紹介しています。

出典

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

愛知で白髪染め専門店が約30店に広がった理由|5つの意義と課題

【2026年最新】美容室フランチャイズ7社徹底比較|加盟金・ロイヤリティ・サポート内容一覧

50代・60代の白髪染め事情|頻度・費用・美容院と市販と専門店の違い

PAGE TOP